空耳日記

生きるための文字起こし

感想「自閉スペクトラム症の女の子が出会う世界」

ASD女性向けに書かれた本ってなかなかないよね、とかねがね思っていたところ、最近このような本が発売されたのをtwitterで知り、読んでみることにした。

この本では、幼児期から老年期までの各年代ごとにASD女性が遭遇しがちな体験などが、自身も当事者である著者がインタビューした複数人の経験談や、先行する学術論文の内容なども踏まえ解説されている。

インタビュー相手はいずれも英国のASD女性と思われるものの、内容的にはうんうん共感できるようなものばかりで、まるで過去の自分自身の声を聞いているかのような錯覚に陥るようだったし、文化圏が異なっても思い悩むポイントなど多くの共通点を見出せたという点で興味深かった。

 

この本には何点か特筆すべき点がある。一つは、個々のASD女性の経験談を多く取り上げることで、その存在をよりリアルに可視化していること。もう一つは、セクシュアリティとの関わりを取り上げていること。

私自身「ASDは男性に多い」という認識を持っていたが、「そもそもASDかどうかの判断基準がほぼ男性当事者をベースとしているのだから、ASD女性の特徴は男性のそれとは異なるのではないか。そうだとすれば、実は多くの女性のASDが診断の場で見逃されてきたのではないか。」との主張には目から鱗だった。
例えば、ASDの特性としてしばしば目にするのが「人よりモノに興味がある」ということ。
いやいや、そうでもないよ・・・私などはしょっちゅう、wikipediaで話題の人物の生い立ちを根掘り葉掘り、気づいたら関連人物までたどってしまったりするのにな・・・まあ、発達特性も当然、性と同様にグラデーションだもんね、などと頭の中で結論付けていたが、こちらの本でも、ASD女性に関しては上記特性に当てはまらないのでは、と疑問が呈されており、単に特性の強さのグラデーションだけではないのかも、と思い直した次第である。

 

また、ASD女性とセクシュアリティに関しては、まるまる一章が割かれていた。ASD女性は定型女性と比べ、性自認の曖昧さが生じやすいとのことだが、感覚的に頷ける部分が多々あり。ASDのトランス女性の声も紹介されている。
発達障害ADHDも含め)女性の「性」に関しては、人間関係のトラブルを抱えがち(相手の真意を見抜けないまま望まない関係に応じてしまう、見せかけの好意を文字通り信じてしまう、など)という点が時折指摘されるが、性自認セクシャルマイノリティの問題に踏み込んだ物は、なかなか見かけないように思う。
このテーマに関しては、私自身がセクシャルマイノリティということもあり、非常に興味深く読ませていただいた。自分自身も、「トランス」ではないけれども、かといって確固たる「女性」という意識を持たずに生きてきたからである。肉体的には女性で、かつ社会的にも肉体的な性に合った役割なり振る舞いなりを求められており、それとのギャップが煩わしいとは思いつつも、社会的に存在する「女性らしさ」のメニューと自分自身の好みとの中で折り合いをつけて生きることはできている。逆に、トランスジェンダーの方々であれば避けて通れない性自認の問題に関して、あまり意識することなく生きてきたかもしれない。この本が、自分の性自認のありようを改めて振り返るきっかけになったぐらいだ。

 

この本に登場するようなASD女性の当事者だけを集めたコミュニティがあれば、だいぶ楽に生きられそうな気がする。女社会にありがちなマウントの取り合いやカーストだとか、興味のないことに表向きだけでも共感や賞賛を求められる息苦しさのようなものから解放され、知的な交流だけでゆるく繋がれるのではないかな、と。