空耳日記

生きるための文字起こし

青・蒼・碧展(郷さくら美術館)

日本画の定義は。日本人が描いたから、ではないだろうな。画材かな?
これらの青は、自然界の素材に由来する色。そのせいか、どの青も、すっと目に入ってきて、本能的に美しいと感じる。
画家のタッチが生み出すテクスチャや凹凸、写真と一緒で、その絵の主題と、主題を引き立たせるものたちをみながら、画家がどんな風景をみて、何に心惹かれたのだろうと想像する。桜という同じモチーフでも、絵によって花びらや枝ぶりの表現や強調されるポイント、花びらの透け感、時間帯、空の色、コントラスト、背景のようすなど、人はあらゆる桜の姿に惹かれるのだなと思う。
主題を引き立たせるるための群青一色よりも、水面や空、植物といった自然の色の美しさと、光とのかかわりを表現するグラデーションに心惹かれる。水面に映るモチーフを表現するとき、モチーフの輪郭を曖昧にすることで、その輪郭や水面に映る姿の美しさに目が留まる。ざらつきとこってり感のあるタッチで表現された白亜の建物の壁、その漆喰の質感。風景画は、目に映る風景の色彩や質感をより強調し、美しく魅せるが、西洋の宗教画にあるような寓意や示唆などにあまり頭を働かせることなく、絵画そのものの美しさに没頭することができる。まさに、美で心を満たすことのできる時間だった。
ひとつ残念な点は、ほとんどの絵が額縁の透明なカバーで覆われ、会場の照明によって鑑賞者自身や周囲の環境が写り込んでしまい、それが鑑賞の大きな妨げとなったことである。その分、絵と鑑賞者との距離は近いけれど、近づいても絵のタッチやそのままの色合いを確認しづらかった。500円で3フロア、点数も多くなく、じっくり見ても1時間足らずで鑑賞しきれるので、体力にも余裕が残りちょうどよかった。
現代日本画が専門の美術館とのことで、私はまともに現代日本画を鑑賞したのはこれが初めてだったが、その色彩とタッチには心惹かれるものがあった。今回のように自然風景が主題だと、空や水や緑を表現するための青は切っても切り離せない存在だと思うが、どの青もそれぞれ、目に入れても痛くない美しさだった。