空耳日記

生きるための文字起こし

考えることは、楽しい。でも疲れる。

本日はスタバにて、昼下がりのティータイムから夕飯までの時間を過ごした。ティータイムに食した分厚いビスケットは、ショーケースの中では唯一口に入れられそうな甘さでありながらも、バターの風味がしっかりと感じられて、こくのあるフレンチプレスのスマトラ産コーヒーには丁度よかった。本2冊とパソコンを持ち込んでおきながら説得力はないけれども、元々は日が沈む頃には店を出るつもりだった。それがついつい、サンドイッチとラテを追加してまで長居してしまったのは、持ってきた1冊の本を読み直すためである。

 

武器としての決断思考 (星海社新書)

武器としての決断思考 (星海社新書)

  • 作者:瀧本 哲史
  • 発売日: 2011/09/22
  • メディア: 新書
 

 もう10年近く前、私が社会人になりたての頃に買った本だ。当時は恐らく、一通り最後までさらっと流し読みして、そのままにしてしまった記憶がある。

この本に大真面目に向き合ってみたら、1日の4分の1も使ってしまった。読み進めては何度も立ち止まって、振り返りや思いつきをメモするような読み方をしていたからだ。

 

この本では、不確実な世の中で生きていくための武器として、ディベートにおける作法を使った「意思決定」の仕方が紹介されている。意思決定の前提として、まず対象を適切に(「○○すべきか否か」という具体的なレベルに落とし込むなど)設定すべきことや、あくまで「最適解」を求めることを目指すこと、導かれる解の内容よりも、解を導く過程が重要であることが説かれている。

さらに、意思決定の対象の是非について、①問題自体の存否②問題の重要性③(問題に対する)対応行動の有効性、といった3条件をすべて満たす形で、メリット・デメリット両方を挙げ、それらへの反論を繰り返した後に残ったメリットとデメリットを突き合わせ、最終的に判断を下す、というプロセスが述べられる。大学の講義形式で、途中に問題演習を挟みながらの説明であり、理解しやすい構成であった。

最初に、普段自分が仕事上で理想としている意思決定プロセスの図を描き起こし、本の内容と比べてみる。多少の違いはありながらも、プロセスの過程で重視する点が上記の3条件とほぼ一致していたこと、判断において根拠を明確にすべきとしている点も、本書で云われていることに近しかった。その一方で、意思決定の前提の部分(判断対象の設定など)に関しては、もう少し意識を向けてみたいと感じさせられたし、何より、『求めるべきものは「正解」でなく、あくまで「最適解」である』という趣旨のくだりは、肝に銘じておきたいと思った。

・・・そんな風に、本を通じて深めた思索や、それによって得た学びを、ただアウトプットするだけではなく、実際の判断や行動に活かしていきたいのである。息を吸って吐くように、自分のものにできたらいいなと思う。

なお、ロジカルに物事を考える傾向があるといわれる、ASDやINTJの方であれば、こういった本は楽しく読み進められ、かつ得るものも多いのではないかと思う。人によっては、「こんなことはいつも当たり前にやっている」と思われるかも知れないが。

 

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現代の自由は、多過ぎる選択肢や情報過多、未来の不確実性と隣り合わせであり、常日頃から意思決定を迫られる。それら一つ一つにまともに向き合おうとすると、疲弊してしまう。

そんな時、思考プロセスにおける何らかのフレームワークが1つでもあれば、考える・決める行為に伴う負担が減るだけでなく、より質の高い結果を導き出すことに繋がる。

数日前、現代アート入門の書評を兼ねて、「自由に」絵画鑑賞することの愉しさについて綴った。「絵の見方は個人の自由」と言われても、指針がなければ戸惑ってしまうように、人生におけるあらゆる選択肢も、判断の指針や進め方が分からないと、結局その時々の「なんとなく」や「好き嫌い」といった感覚や、「周りがそうしているから」という曖昧な理由で判断してしまう。自由の範囲、そしてそれは即ち自己責任に帰する範囲が広がっているこの世の中で、その自由の海の中で溺れず、かつ自分の意思で方向を決めて泳いでいくためには、泳ぎ方の基礎をマスターしなければいけない。

私の狭い視野の範囲で、世間や身の回りを観察する限りでは、その手の基礎を身に付けている人は、10人に1人もいないと思われる。私の職場でも、上記のようなプロセスを踏んで意思決定をしようとする上司や、相談をしようとする同僚は数人しか知らない。

こうした基礎を習得するだけでも、周囲と差をつけることができると思われる(論理性を重視する職業で、それは相対的にプラスの評価に働くだろう)一方で、こうしたことは本来、義務教育の段階で学ぶべき、生きるためのスキルではないかと思う。それこそ、家庭科でお米の炊き方を、保健体育で避妊の仕方を学ぶように。